2025年度卒業式・大学院修了式 式辞
卒業生の皆さん、本日はご卒業、誠におめでとうございます。
また、本日まで学生たちを支えてこられたご家族の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。
さて、皆さんが生まれたのは2003年前後から2005年前後の方が多いのではと思います。その頃、世界ではイラク戦争が始まり、国際情勢が大きく動いていました。また、皆さんがまだ幼い頃、日本では東日本大震災が起こり、多くの人が助け合うこと、つながることの意味を改めて考える時代となりました。
その後、皆さんが成長する中で、時代は大きな節目を迎えます。平成から令和へと元号が改められたことです。日本で初めての、天皇の生前退位による改元という歴史的な出来事のなかで皆さんは育っているということになります。
そして皆さんが高校から大学に入学する頃、世界は思いもよらない出来事に直面します。そう、新型コロナウイルス感染症です。
大学に入学したはずなのに、キャンパスには行けない。新しい友人と出会ったはずなのに、最初に見たのはパソコンの画面。授業も、ゼミも、サークルも、すべて画面の中。皆さんの中からは、このコロナ禍でこんな声が聞こえてきそうでした。「授業の途中で名前を呼ばれても、まず"あ、ミュートだ"と慌てる能力が身につきました」。また、オンラインの授業では、「回線が不安定で」という言葉が、時に人生を救う魔法の呪文でもありました。
Zoomやチームスのミュート解除や空気を柔らかくするように取り繕う技術は、おそらく人類史上、皆さんが最も優れた人たちだと思います。大学の教育としては、それが最も重要であったかどうかは少し議論の余地があるかもしれませんが、この4年間で皆さんが最も成長させたものは、もしかすると授業でもサークルでもなく、パソコンやスマートフォンのスクリーンタイムだったかもしれません。皆さんが過ごしてきた社会は、それほどに劇的な変化の中にありました。皆さんは、そんな変化の中をたくましく進んできた、新世代のファーストペンギンでもあります。
けれども、そうした困難な状況の中でも、皆さんは学び続け、友人と出会い、研究し、本日ここに卒業の日を迎えました。これは決して当たり前のことではありません。しかし、どれほど技術が進んでも、人間にしかできないことがあります。それは、悩み、迷い、挑戦し、そして誰かと支え合うことです。震災のときも、パンデミックのときも、社会を支えたのは人と人のつながりでした。皆さんは、不確実な時代を経験しながらここまで歩んできた世代です。だからこそ、これからの変化の激しい社会の中でも、つながる、ということの大切さを最も知り、だからこそ、きっとしなやかに進んでいくことができるのだと思います。
ここで、皆さんしか経験していないこと、そしてこれからも経験する人は決して現れない特筆すべきことがあります。それは、来年60周年を迎える神戸親和大学の、ほぼそのほとんどをその姿で歩んできた、神戸親和女子大学の最後の卒業生、修了生でも皆さんはあるということです。ここまでの長い歴史を締めくくってくださって、ほんとうに、ありがとうございました。神戸親和大学となった今も、本学は皆さんの唯一の母校であり続けます。皆さんの積み重ねられた歴史を、大学はさらに発展させていきたいと思います。
ここで、皆さんに一つだけお願いがあります。今日この式が終わったら、ぜひご家族にこう言ってください。「ここまで育ててくれてありがとう」。そして、もし言うのが少し照れくさい場合は、こう言っても構いません。「学費の投資、今日ようやく回収の見込みが立ちました。」
きっと、ご家族の皆さんも今日という日を、皆さんと同じくらい、あるいはそれ以上に喜んでおられると思います。大学の卒業証書は、学生本人の努力の証であると同時に、今日ここにおられるご家族や周囲の方々の支えの証でもあります。どうかそのことを、ときどき思い出してください。
人生は長い旅です。できれば、その旅は少し面白くて、遊びのように夢中になれる方がいいと私は思います。我を見失わず、さりとて我を忘れてその旅を楽しむことができれば最高だなと考えています。「禅の道」という本を書いたアラン・ワッツというイギリスの哲学者は、「人生は解決すべき問題ではなく、答えるべき質問でもない」と言いました。成果が問題となり効率を求める現代社会では、確かに、何かの「正解」を探し求め、答えが出ないと不安を感じる人も少なくないと思います。けれども、人生は一方で、ただ経験すべき未知に過ぎない、とワッツは主張します。もちろん、このような主張をどのように受け止めるのかは、皆さん自身の問題です。でも、どんな時でも、モノの見方、考え方を変えれば、いつでも自由になれるということは、ぜひ覚えておいてください。皆さん一人ひとりの未来が充実し、そして時々は笑える出来事に満ちたものになることを願っています。どうか、失敗を恐れず挑戦してください。そして、ときには立ち止まり、ときには笑いながら歩んでください。皆さんは、不確実な時代を経験しながらここまで歩んできた世代です。だからこそ、これからの変化の激しい社会の中でも、きっとしなやかに進んでいくことができる力を育んでいるはずです。いつまでも、笑顔の中で健闘されることを心から祈っています。
卒業生の皆さん、本日はまことにおめでとうございます。
令和8年3月20日
神戸親和大学 学長 松田恵示




